紐解かれる─魔導器─ウェイポイント奇譚 (2012/12/28)

俺だ。
ズルコバズルコだ。

便利だろう? ウェイポイントってやつは。
今回はその謎を華麗に解明するため、
魔導器について誰よりもうるさいこの俺が、
どうしても知りたいってやつのために語ってやろう。

それは、クォン大陸に向かう船の上での話。
船首に立って新たなルーンを全身で受け止めていたところ、
アナスタズ先生がなんかいろいろ語っていたので、
そのときの記録を残しておく。

遠慮こそ罪である。さあ、読むがいい。

※注)ズルコバズルコ氏の改変があまりにも酷かったため、運営側で適切な表現に修正させていただきました。ご了承ください。

「すみません、先生! おやつください〜」

調査団員の一人、クイ・オリベの猫なで声が甲板に響いた。

「さっき食べたじゃありませんか。仕方ないですね……」

先生と呼ばれた調査団リーダー・アナスタズは、
懐からジャングルクッキーを取り出して彼女に差し出す。

「ありがとうございます!
もらえるの、わかってましたけど」

クッキーを一口で頬張る彼女を横目に、
見習い魔導剣士のズルコバズルコが口を挟んだ。


「ガキ……だな。
貴様には甘〜い甘い、甘ちゃんのクッキーがお似合いさ……」

彼らを乗せた機船は、大海ザフムルグを東に横断しつつ、一路クォン大陸を目指していた。
ウルブカ大陸付近は海流が速く、航路は慎重に設定する必要があった。
そのため、大幅に迂回する必要があり、出発してからすでに7日半が経過していた。

長い船旅に慣れていない調査団員も多い。
船旅自体が初となるウィストフルバイソンは、
強烈な船酔いに悩まされていた。

「なぜ私がこんな目に……。ウェェ〜……。
これも全て、チェイロマチェイロ様の思い付きのせいですよ。
いつもこうなんです。考えるより直感で……ウェッ……ェ……」

「きっとそれも、商務大臣としての才覚の一つなのよ。
ま、仕事とはいえ……ご愁傷様」

スカウト・ワークス(SCT.ワークス)から派遣されたジリアは、
彼の背中をさすりながら介抱している。

「先生、今回の任務は中の国にそいつを設置することなんですよね?」

ズルコバズルコが指差した船倉の中で、
黄銅のような金属で作られた「魔導器」が眠っている。


「ええ。中の国用に調整された試作品のウェイポイントです。
そうそう、クイ・オリベさんには磁場の予見も行ってもらいますよ」

「はいっ! 失敗するかもしれませんけどがんばります! 自信ありません!」

クイ・オリベが元気に答えた。
やれやれといった表情をしたズルコバズルコは、ため息交じりに呟く。

「この任務、アムチュチュ様に認めてもらうチャンスだからな……。
俺はもう……失敗するわけにはいかない。このルーンにかけて……!」

「アムチュチュ様って、インベンター・マイスター(INV.マイスター)の?」
ジリアの問いに対し、ズルコバズルコは続けて語った。

「アムチュチュ様、最近はクォン大陸から来たっていう技術者に夢中でな。
あんな若造の、しかも意味不明な話のどこが楽しいんだっつーの。
俺の武勇伝の方が何億万倍もおもしろカッコいいぜ」

「何言っちゃってんの?
チャプリ一匹も仕留められないくせに」

すかさず痛いところを突くクイ・オリベ。

「ぐ……ぐおおおぉぉぉぉっ……!
くそっ、まずい……! 鎮まれっ、俺のルーン!!」

「まあまあ、それくらいにしておいて。もうすぐ着きますよ」
こういった状況には慣れているのか、
何事も無かったかのようにアナスタズがいさめた。

「ところでアナスタズさん、
ウェイポイントってどういう原理で動いているんですか?」
タイミングを見計らったジリアがアナスタズに問い、
「ウィストフルバイソンさんも知りたいことだと思うので」と続けた。

「そうですね、この機会に教えておきましょうか。
と言っても、私もそこまで詳しくはないのですが……」

アナスタズは語る。


「話せば長くなるんですが、
この磁場を利用したワープ技術は、遥か古代より存在していたようです。
その技術がウェイポイント開発のきっかけとなりました。
魔導器で制御できるようになったのは最近のことなのです」

「へぇ、古代……。
そんな昔からあったんですね」
ジリアが相槌を打つ。

「文献によれば、その魔導器のおかげで
大きな戦いで戦況を優位に導いたとも伝えられています。
やがて月日は流れ、開拓が禁じられるようになってからは
魔導器も使われなくなり、廃棄……」

「ええ〜、超便利なのにもったいないです〜」
クイ・オリベが2枚目のクッキーを頬張りながら声を漏らす。

「確かに、そうですねえ。
でも、開拓の道が閉ざされ、近隣の諸島だけでは資源も乏しかったのでしょう……。
それに、ジョリウスの門から外へ出る必要がなくなったわけですからね。
役目を終えた……というのが、正しいのかもしれません」

「それで、魔導器での制御の話に戻りますが、確か十数年前くらいでしょうか。
アドゥリンを訪れた博識の女性から「魔導式」という移送術が伝わりまして……」

「ほぅ。素晴らしいな……
魔導、つまり俺のルーツと同じとは……」

ズルコバズルコの反応を受け流しつつ、アナスタズは続ける。

「セレニア図書館に眠っていた古い文献から
魔導器に関する情報を発掘し、さらに彼女の魔導式による制御を組み合わせました。
そうして誕生したのが、現在、我々が日常的に使用しているウェイポイントなのです。
その女性の功績による賜物ともいえるでしょう」

「へぇ〜。
で、それで? その女性ってのは……」

「!!!
ほら、皆さん! クォン大陸が見えてきましたよ!」
アナスタズは、ジリアの突っ込みを制しながら水平線の先を指差した。

うっすらと大陸が見えている……!

「おおー! ついに到着です〜」
「やっとか……俺が正気のうちに辿り着けてよかったぜ」
「新しい大地! 新しい魚! 楽しみですね!」
「ウェッ……」

海原に上がる3つの歓呼と、1つのえずき。

アナスタズは、海面に反射する陽光に目を細めつつ、
徐々に大きくなる漁港の様子をじっと見つめていた。