忘れじのヒナドール (2013/02/12)

風にピンク色の花びらが舞う季節。
ヴァナ・ディールの大きな街には、ウィンダスの鼻の院から贈られたサクラの樹が飾られています。

今年もまた女の子のためのお祭り、ひなまつりが始まります。

最近では、祝いの品としてヒナドールと呼ばれる東方風の人形を家に飾る人も増えたとか。
ところが残念なことに、年に一度だけの祭りとあって、倉庫に入れたまま人形を忘れてしまっている家も多いみたいです。
新しい年の風を、ぜひヒナドールズにも感じさせてあげてください。

ヴァナ・ディールに住む女の子たちに祝福の風が吹きますように。
子どもたちの健康と幸いを祈ってヒナドールズは飾られるのですから。


そうそう。ウィンダスの片隅でも、とあるヒナドールを巡って。
こんなお話があったみたいですよ。

アノデデの家には、ヒナドールズがなかった。
ひなまつりなのに飾る人形がない。
今年で六つになるアノデデは、今年こそはと期待を込めて母親にお願いしたのだけれど、答えは無情にも「あなたにはまだ早いわ。来年になったらね」だった。
「ママってば、去年も同じこと言ったわ」
「そ、そうだったかしら?」
「もう! わかった。わたし、自分でお人形を探すもん! いいでしょ?」
宣言してから母親のクローゼットへと突進し、中を漁り始めた。
人形のひとつくらい隠れているかもしれない。

そうしてアノデデは封のされた小さな箱を見つけた。
アノデデの心臓が大きく跳ねる。
冒険者が宝箱を見つけたときはこんな気持ちなのだろうか。
アノデデは小さすぎて、冒険者どころか、スターオニオンズ団にだって入れてもらえないのだけれど……。

「なにかな? なんだろ?」
ドキドキしながら、ゆっくりと蓋を持ちあげる。
箱の中にあったのは小さな人形に見えた。
だが、かわいくない。
着ている服は枯れた落ち葉のような色だし、顔も絵の具が滲んで真っ黒け。
「ママ、これってなあに? なんのお人形さんなの?」
母に見せたが、口籠ったまま目を逸らし何も答えてくれなかった。
「え、ええとね。それはぁその……ママにはわからないなあ。うふふふふふ」
「わかった。みんなに聞いてみるね!」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってアノデデ……」

見つけた人形を手にアノデデは家を飛び出した。
走っていたら目の院の前で幼馴染みとぶつかりそうになって止まる。
ふたつ上で、いつも大きな本を抱えている、魔法学校に通う頭のいい男の子。
「ねぇ、お兄ちゃん。これ、なんのお人形かわかる?」
「うん? おう。そーゆーの、ちょうど見たところだぞ」
持っていた『東方の博物学』と書かれた本をめくる。
見せてくれたのは、ヒナドールについて書かれた頁だった。
形がそっくりだったからだ。
女の子の健康と幸せを願って作られる人形だと彼は言った。

「でも、かわいくないよ?」
「んじゃ、こっちかな」
書物の後ろの方を開いてアノデデに見せてくれる。
「このあたりは東方の呪術に付いて書かれた部分だよ」
「じゅじゅじゅ?」
「じゅじゅつ、だ。呪いのことさ」
「のろ……い?」
「そうだよ。東のほうの国じゃ、人形を作って相手を呪ったりするのが一般的なんだぜ。相手の髪の毛を編み込んだりしてさー。真夜中にその人形を串刺しにしてジンジャブッカクってところで一晩中踊るんだってさ!」

なんて恐ろしいんだろう、東方って。
かわいいお人形さんをそんなことに使うなんて信じられない。
もし、これがその呪いの人形だったらどうしよう……。

その頃、アノデデの家では、母親が頬杖をしたままため息をついていた。
思い出すのは、アノデデが生まれた時のこと。
東方の風習が入り込んできた頃。手に入れ辛かったヒナドールズ。
見よう見まねで娘のためにと作ってみることにした。
けれども、生来の不器用さが仇になり、贔屓目に見ても不気味な呪われた人形にしか見えないシロモノが出来上がってしまった。
飾るのにためらうほどの出来栄えで、かといって捨てるに捨てられず。
クローゼットの奥へと押し込んでいた。

帰宅を告げる娘の声。
部屋に入ってきた娘は、手にあの人形を持っていた。
「アノデデ、ひなまつりのお人形だけれどね……」
切り出そうとしたのだけれど、なぜか娘はこげ茶色の人形を箪笥の上に飾ろうとする。
「これでいいのよ、ママ」
「……えっ?」
「じゅじゅじゅな人形じゃないんだって。まどーしのおば……、じゃなくて、おねえさんって言わなくちゃいけないんだったわ。魔道士のおねえさんが教えてくれたの」
聞けば、目の院の前で出会ったタルタルの魔道士が、この人形は不吉なものではない、と保証してくれたのだという。

『呪いの人形ですって?』
高笑いとともに、その魔道士は言ったそうだ。
『オホホホホホ! バカおっしゃい。わたくし、ぶちきれますわよ。あなた、本当の呪いの人形をご存じないのね。わたくしは、その手の人形のスペシャリストですの。いいこと? 真の呪いの人形が、こんなチンケで貧相なものであるはずがないでしょう!』

「すっごく自信ありそうだったよ」
「そ、そうなの……」
「うん。だから、これでいいの!」

娘が飾った人形をよく見て母は驚いた。
顔がきれいになっている。
眉もすっと細く綺麗な線で描き直してあるし、薄い唇はほんのりピンクに引かれていた。
やさしげな笑った顔になっている。
魔法の絵筆でも持っていて、その場で顔を描き直してくれたというのだろうか。
自分がこう作りたかったという人形そのものだ。
衣装はそのままだったけれど、これなら確かに飾っても怖くない。

「『大事に作られたものみたいですから、あなたも大事になさい』って言ってたの」
アノデデが飾った人形を見て満足そうに微笑んでいる。
「これで、うちにもオヒナサマが来たね!」
娘の笑みに、母も知らず微笑んでいた。
「お祭りが終わったらちゃんと仕舞うのよ。そうしないと、お嫁に行きそびれるって言い伝えがあるんだから!」
「お嫁さんになれなくなっちゃうの?」
「言い伝えだけどね。まあ……迷信だと思うけど」

ウィンダスのどこかで、偉大なる魔道士がくしゃんと大きくくしゃみをした。


Story : Miyabi Hasegawa
Illustration : Mitsuhiro Arita

開催期間

2013年2月19日(火) 17:00頃から3月4日(月) 17:00頃までを予定しています。

モーグリの出現場所と飾り付け

イベント期間中、以下のエリアにモーグリが出現します。また、それぞれのエリアには、「ひな壇」が飾り付けられる予定です。

・南サンドリア(J-9)
・北サンドリア(D-8)
・バストゥーク鉱山区(I-9)
・バストゥーク商業区(G-8)
・ウィンダス水の区(北側F-5)
・ウィンダス森の区(K-10)

モーグリに話しかけると、ひなまつりにちなんだアイテムを受け取ることができます。