ワークスに関する報告書 (2013/03/07)

ユグナス・S・アドゥリンのウルブカ開拓宣言に端を発し、
神聖アドゥリン都市同盟にワークスという組織が作られた。

宣言を受けた後に設立されたため、まだ歴史が浅い組織であるが、
各ワークスの活動が人々の生活を支えていることは確かである。

そのワークスの実態について、
アドゥリンで暮らす人々の会話から垣間見てみよう。

──それでは次の質問です。
各ワークスが設立されてから早3年が経ちましたが、
その後の生活で思うところはありますか?

いつものシックなコートに身を包んだ私は、
街頭で聞き込み調査を行っている。

西アドゥリンの玄関口「ジョリウスの門」にて新米開拓者の案内を行うルート(Ruth)氏は、こう答えた。

「そうですね……。
パイオニア・ワークスで開拓者登録する人も増えてきて、かなり認知されてきたように思います。開拓の推進は我が当主ユグナス様のご意志ですから、喜ばしいことです」

神聖アドゥリン都市同盟には、6つのワークスが存在する。

開拓斡旋から治安維持、大切な荷物の宅配まで……。
各ワークスは国民の暮らしを支える国営企業として、
豊かな生活には欠かせない、あらゆる役目を果たしているのだ。

なお、国の行政を担う六大臣と合わせて、
アドゥリン十二名家がワークスの最高責任者(マイスター)を担当している。

──ワークスの仕事についてはどう思いますか?

取材対象を変え、さらに調査は続く。
回答してくださったのは、ウェイポイント管理を担当する
アリエノール(Alienor)氏。

「ウェイポイントの調整を行うので、インベンター・ワークスにはよくお世話になっていますよ。
それはもう、たまに余計な機能をつけやがり……じゃなかった、独創的なアレンジを施してくださることもありますけど」

そこで突然、話題に割って入る一人の男(女?)の姿が……。

「あら、イケメン……ってほどでもないわね。
人呼んで、アドゥリンに狂い咲く胡蝶蘭!
まずはこのフィレーム(Phileem)様を訪ねるのが筋ではなくて?」

私は小さく舌打ちした。

──ええと、マッマーズ・ワークスの情報なら間にあって……。

「聞いて聞いて、最近ね、新しいゲームが入ったのよ〜!
あとねぇ、なかなか愉快な芸人コンビが入ってますます充実なの!
マッマーズ・ワークスが提供する質の高い娯楽には今後も期待大!
絶対来なさい!! って、ペンが止まってる。ほら、ちゃっちゃとメモなさい」


マシンガン・オネェトークを振り払うかのように路地へ抜けだすと、
今度は、独特のリズムに合わせた売り込みの声が聴こえてきた。

「新鮮な野菜はいかがですか〜♪」

水着姿のミスラが売り込んでいるのは、
ララ水道産の野菜のようだ。

──やあ、アン婆さん、今日も売れてないかい?

「余計なお世話だよ!」

私がアン婆さんと呼んだのは、アンセグゼール(Ansegusele)氏。
彼女は、野菜を売り続けて35年の老練な露天商である。
ララ水道にあるシビック・アボレタムで栽培された新鮮な野菜は、毎朝クーリエ・ワークスの手によって、彼女の元に運ばれてくる。
「ワークスの子たちには感謝しっぱなしだねぇ。
彼らが毎日運んでくれるから、こうして平穏に
商売できるってもんだ。ありがたいことだよ」

──迅速、丁寧、安全のクーリエ運送ってとこか。
ララ水道にはピースキーパー・ワークスの詰め所もあるし、
最近はワークスさまさまって感じだな。

話題に挙げたピースキーパー・ワークスは、
街の治安を一手に引き受ける組織のことである。

アドゥリンを訪れた者ならば、国旗と同じブルーの色調に、
豪華な刺繍が施された鎧を目にするはず。
両腕、両脚の独特なオレンジと白のラインが際立つデザインも特徴的だ。

風紀を取り締まる様は徹底された完璧主義。
脅威から護ってくれるのはありがたいのだが、
たまに窮屈で不満の声も……おっと、この話題はここまでにしておこう。


こうして一通りの調査を終えた私は、
現在、この日報の執筆に取り掛かっている。

おっと、忘れていた。
最後にもう一つ。
私の所属するスカウト・ワークスのことを記しておきたい。

あらゆる情報の収集と、
その記録を行うのが当ワークスの役目である。
時には諜報活動を担当することもある。

たかが情報。されど情報。

情報の価値は、幾億の金銭より重くなることもあるのだ。
たった1行の文章が一国を揺るがす事態を引き起こすことさえも。
そう、例えば……。

と、あまり私見を連ねたところで、
スカウト・マイスターのマルグレートの検閲で
バッサリ破り捨てられる情景が目に浮かぶため、
この辺でペンを置くことにする。

ジュノ大公国への陳書に加えていただけると聞き及んでいたため、
やや他人行儀な表現を含む内容となったことはご容赦願いたい。

ただし、我らワークスの活動により、
新たにアドゥリンを訪れる冒険者の方々の安寧が保障されることは自明である。
それだけは、確かな情報としてここに記しておく。

新たな開拓の芽が花開かんことを願いつつ。

スカウト・ワークス所属 ウェゲリオン(Wegellion)


Illustration : Mitsuhiro Arita