出来事



あなたが理想とする冒険者像が如何なるものか、想像するのはたやすい。伝説の武器を携え超常の技を振るう雄姿、あるいは眩い光をまとって呪文を紡ぐ魔道を極める者。いずれにせよ今のあなたからは程遠い存在だ。
荷物から取り出した武器を装備したところで獣人すら切り裂くこともできず、なけなしの巻物で魔法を覚えたとしても、兎を倒すことすらかなわない。だが、それが重要なのだ。武器を携え魔法を覚えることが危難に対する心構えとなり、冒険者としてのあなたを助けることになるはずだ。いつの日か高みを目指すなら、その心構えをゆめゆめ忘れるべきではない。

冒険者の本質とは戦うことである。熟練の域に達した者は、例外なく戦闘に長けている。あなたでも命を失わない限りはいずれそこに到達できるはずだ。

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だが、今のヴァナ・ディールが求めているのは腕自慢ではない。名うてと言われる冒険者たちは、実績によって各国の信頼を得て活躍している。実績とは戦いのみによって蓄積されるものではなく、危険な依頼をこなして初めて認められるもの。武勇だけではなく期待に応える誠実さも冒険者には必要なのだ。

当然あなたにはその実績はないはずだが、それでも信頼を寄せる者もいることを忘れてはならない。街の中で話した相手には、頼みごとをしてきた者もいただろう。例え小さな要求であろうと、あなたの様な半端者にさえ期待している証なのだ。

確かに冒険者という生き方に正道はない。その期待に応えるのも、ミスラの尻尾と流すのもあなたの自由だ。だが何故見ず知らずのあなたが信頼されたのか、その理由を考えることを怠ってはならない。一度でも裏切られた者は、二度と冒険者を信用しないのだから。

冒険者が衆目を集める時代において、冒険者としての心構えを見失うことこそが、もっとも恥ずべき行為である。