出来事


あなたが何を求めて冒険者を志したのか、敢えて訊くつもりはない。語り継がれる名声、私欲を満たす巨万の富、あるいは純然たる正義の理想。いずれにせよ愚にもつかぬ夢を見て、その身を危険にさらす気には違いないのだから。

「険しきを冒す者こそ冒険者なのだ」と威勢よく切り返されれば気持ちもいいが、「険しきが何か」を知ろうとしない冒険者が多いのも事実。自分の無知を棚に上げ、いっぱしの冒険者気取りとは片腹痛い。それで命を粗末にされたのでは、冗談にしても度が過ぎる。さしずめ、あなたもその様な輩の1人なのではないだろうか。

大望を秘めて上京したのはいいが、地図の見方もわからず右往左往しているのが関の山では、その身の程も知れている。所詮は十把一絡げの雑兵といった所か。

だが、それを知ることこそ肝要なのだ。夢や野望を語るのは魅力的だが、獣人の前では何の役にも立ちはしない。自らの未熟さを知り、己を磨いてこそ、名だたる冒険者としての資格を得られるというものだ。

目的もなく獣人と刃を交えるよりも目的を求めて街をゆくことこそ、今のあなたには相応しい。物事には順序というものがあるはず。まだ慣れぬ街で地図を片手にさ迷えば、いずれは街の構造も身につくだろう。

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街の者の言葉に耳を傾け、すれ違う冒険者に道を訊ねるのも良い。何気なく語られる言葉は知識を与え、やがてはあなたの国、ひいてはヴァナ・ディールについて考える糧となるだろうから。

功名に逸るあなたの気持ちを否定するつもりはない。思いの強さが、いずれ自分の力となる日も来る。しかし先走っただけの思いでは、単に死地へ近づくだけの事に成りかねない。あなたの最初の冒険が、己の無知を知るささやかな街中の探検であったとしても、誰もそれを咎めはしないのだから。