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編集部の窓から望む海は絶景なのだが、見渡す限りが水平線ではなんとも飽きがくる。「編集部の風景に潤いを。観葉植物でも育ててみようか」と思い、植木鉢を探し出したのが不運の始まりだった。

知ってのとおり、ジュノ大公国はクォン大陸とミンダルシア大陸を結ぶ「ヘヴンズ・ブリッジ」の上に建てられている。

海を見るには最適な立地といえるが、それにしたって限度がある。編集部にこもって水平線しか見えない窓を眺め続ければ、誰だって緑が恋しくなるはずだ。

こうしている今も、街道の片隅では緑の芽が吹き、風や雨の日を耐え、やがて鮮やかな花を咲かせ、そして枯れてゆくのだろう。

そんなつまらないことばかり考えていても際限がなく、編集部の中がよけい殺風景に感じられてくるのだ。

慰みに植物を育ててみようと思った。

早速植木鉢の購入を決意したのだが、よっぽど運が悪いのか、どうやっても手に入らない。

職権濫用とも思える情報網を駆使して、四方八方に手を伸ばしたが、どこへ行っても入荷待ち。

20件目にして、やっと1つ見つけたと思ったら、店員さんがうっかり床に落として割ってしまう始末。

これはきっと女神アルタナの仕業に違いない。

恐らく、私には栽培の才能がなく、植物を育てるとことごとく枯らせてしまうのだろう。それを案じた女神が、先手を打って私に栽培をさせないようにしているのだ。

馬鹿みたいだが、そう考えでもしないとやってられなかった。

そして私は栽培を諦め、植木鉢を探すのもやめる決心をした。

まあ、実のところ単に運が悪かっただけなのだが。

ある日、私の家から一番近い雑貨屋に大量の植木鉢が陳列されたのだ。私は植木鉢を大事に抱え、財布を取り出していた。

数週間が過ぎて、編集部の窓際にはその鉢が置かれ、名も知らぬ花が咲き誇っている。

私に栽培の才能があるとは思えないが、女神に見放される程ひどくはなかったらしい。

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