「驚いたよ! 召喚士のアーティファクトは、ウィンダスの英雄こと大召喚士カラハバルハ(Karaha-Baruha)の考案した“エボカー装束”を復刻したものだったっていうんだから!」
フレッダル調査員は、織工ギルドに保管されていたカラハバルハの注文に関する資料を、特別に閲覧させてもらったという。
「カラハバルハはね、何でも、型紙まで自分で作って、ほら、そこにある織工ギルドに持ち込んだんだって。でね、その時の型紙を、最近になってある人物が復刻することに成功して、ギルドにいくつか縫製を依頼してたらしいんだ。今オレが試着させてもらってるのも、そのうちの1つってわけ!」
型紙の復刻に成功した人物について質問すると、彼は笑って答えた。
「うーん、教えてあげたいところだけど、オレも口止めされてるんだよね。石の区に住んでる“K”のつくひとだってことで勘弁して!」
そこまで聞き出せれば十分である。記者は、アーティファクトについて質問を続けた。カラハバルハゆかりの装束と聞けば、冒険者ならずとも興味が湧いてくる。
「え、頭の角について? ああ、これはね、伝説の一角獣の角をモチーフにしてるんだって。ダブレットの着心地? すごく快適。最高! さすがオレが見込んだカラハバルハだね!」
彼は、そう言って跳んだり駆け回ったりしてみせた。
「それじゃあ、いよいよここから大事な話をしようかな!これを身にまとうとね、召喚士の肉体と、アストラル体である召喚獣とが、同調しやすくなるらしい。何だか難しい話だけど、うまく同調すると本来ヴァナ・ディールでは不安定な召喚獣の存在が安定するんだってさ。それとね、もっとすごいことも発覚したんだ」
にわかに声をひそめて、フレッダル調査員は言った。
「……なんと、すべての復刻品に、カラハバルハが着用していたオリジナルのエボカーダブレットに使われてた亜麻布が、少しずつ縫い付けてあるんだってさ!
まあ、実際のところは、ほんの小さな布切れみたいなんだけどさ、それでもカラハバルハにあやかれそうっていうか、彼に守ってもらえそうな気がしない?実はオレ、これを着てから力が湧いてきたような気がしてたんだけどさ、これってもしかして、カラハバルハ効果!?」
召喚士ではない彼が、本当に彼の力を感じることができたかは大いに疑問であるが、今回アーティファクトを貸してくれた冒険者は、彼の話を聞いてたいそう喜んでいた。
「おっと。オレとしたことが大事な話を忘れてたかも!」
フレッダル調査員は、慌ててつけ加えた。
「このアーティファクトにも、1つ難点があるんだ。抗アストラル能力を身につけていないひとがこれを着たまま寝ちゃうと、たいへんなことになっちゃうらしい。え? 何がどうたいへんなのかって?あのね……、魂が肉体からふわふわと離れて、そのまま夢の世界に迷いこんじゃうんだって!!」
持ち主の冒険者は、この話を聞いて震え上がっていた。何も知らなかった彼は、毎晩アーティファクトを着たまま床についていたらしいのだ。
「いや、キミみたいにちゃんと修行を積んだ召喚士なら平気なんじゃないの? 危ないのは、オレみたいな“抗アストラル能力って何?”ってレベルの素人さ。うっかり、このまま居眠りしちゃったりすると……」
果たして、魂は本当に夢の世界へ飛んでいってしまうのだろうか? その後、肉体へ戻ってくるのだろうか?
その時、フレッダル調査員には熱い視線が注がれていた。やはり記者だけではなく、その場で取材を見学していた人々はみな、同じことに興味を抱き、同じことを彼に期待していたのである……。
嫌な雰囲気に気づいたフレッダル調査員は、そそくさと装束を脱いで持ち主に手渡したかと思うと、そのまま姿をくらましてしまった。