竜騎士のアーティファクトを装着し、凱旋広場に現れたキャルヴィータ調査員は、律儀に冑を脱いで会釈してから語りはじめた。
「このアーティファクトの正体は、昔この国の竜騎士たちが好んで使っていた由緒正しい甲冑、その名もドラケンアーマーでした!あ……、正確に言うとドラケンっていう名を冠するのは、あのラスト・ドラグーンが装備していた最後期の様式の甲冑のみだそうです。こうして実際に身につけてみると現代的なデザインに見えますけど、これ、実はかなり古い時代のものだったんですね」
かのラスト・ドラグーンこと、エルパラシオン(Erpalacion)卿が愛用した甲冑とは、いったいどのようなものなのだろうか?
「古来より竜騎士たちは、より高く跳ぶことを目標としてきたんです。だからドラケンアーマーは、彼らの跳躍力をおもいっきり発揮できるように設計されているんですよ!」
確かに、初めて竜騎士と戦いを共にした冒険者は、彼らの超人的なジャンプに肝を潰すらしい。ある者など、靴底にバネが仕込まれているのではないか、と本気で疑っていたほどだ。
「まさか! バネではありませんよ」
キャルヴィータ調査員は、笑った。
「たとえば、独特の形状によって空気抵抗を減らしていたり、金属装甲を必要最低限の部位にとどめることで総重量を軽くしていたり……。ドラケンアーマーって、今どきの甲冑と比べても遜色ない技術で作られてるんだそうですよ」
遜色ないどころか、むしろある分野では進んでいたのかもしれない。
「この甲冑の製作には、何人かの竜騎士たちも携わっていたそうです。だから、ここまで凝っているのかもしれませんね」
確かにそれならば、独自の機能を追求した作りにも納得がいく。当時の竜騎士たちは、ありったけの知恵と情熱とを注いだのだろう。より高く跳ぶために……。
「ちなみに、他にも驚くような仕掛けもあったんです。表からは見えないけれど、甲冑の内部の空洞には笛のような装置が仕込まれているんですって。実はその装置、竜騎士の呼気を飛竜にだけ聞こえる音の信号に変えて伝えているんだそうです!」
思わず微笑まずにはいられない話だ。甲冑の内側には、竜騎士と飛竜だけが知る秘密が隠されていたのだから。
こうして、キャルヴィータ調査員によって多くの事実が明らかにされたが、やはり最後までわからなかったこともあった。
「たとえば、この装甲の素材なんですけど……」
それは羊皮紙のように薄いのにもかかわらず、十分な硬度を備えているようだった。素人目にも特殊な金属であることがわかる。
「甲冑のベースには、丈夫な雄羊とベヒーモスのなめし革が使われているんですが、肝心の装甲部分の金属がなんなのかとなると、ベテランの鍛冶職人さんや鑑定士さんも頭を抱えてしまうそうなんです」
本来なら、その素材や製法に関する知識は、竜騎士たちに代々継承されていくはずだったのではなかろうか。ところが、エルパラシオン卿を最後に竜騎士の伝統がひと度断絶してしまったことで、それらは永遠の謎と化してしまった……。そう考えることもできる。
キャルヴィータ調査員は、取材の最後にこう語った。
「残念ながら、当時の製法は残されていません……。でも、その代わりにこの甲冑は、かつての竜騎士たちが注いだ情熱を現代の竜騎士たちに伝えているんです!それって、すごく素敵なことだと思いませんか?」