読み物 水晶夢宙

編集部がだんだん手狭になってきたので、引っ越しをすることにした。引っ越し日は、前号が刷り上った翌日。同じ階層の近所に移転するだけだったから、編集部員だけで引っ越しの作業をするつもりだった。

どうやっても翌日の夕方までかかるだろうという予測のもと、私たちは朝早くから総出で引っ越しにあたる計画を立てた。

しかしながら、作業は一向にはかどらなかった。

フィンリーン(Finreen)は取材した冒険者たちとの思い出の品を発掘しては、しげしげと眺めていたし、ゼング(Zenngg)は溜め込んでいた領収書の処理にてんてこ舞い。

荷造りをさっさと済ませ、唯一順調に作業を進めているかと思ったリルクク(Rirukuku)も、よく見ると、自分より大きくまとめてしまった荷物に四苦八苦。抱え上げて数歩進んでは一休み、を繰り返している。

かく言う私はといえば、連日の徹夜がたたって寝坊してしまい、まったくの手つかずという体たらくだ。

そんな編集部に救世主があらわれたのは、正午を過ぎ、のんびり屋の私ですら「このままでは荷造りすら今日中に終わらない」と焦りを覚えはじめた時だった。

いつも本紙を各国に配達してくれているモーグリたちが、刷り上がったばかりの前号を受け取りに来たのだ。

そして、私たち編集部員の姿を見て一斉に質問したのである。「引っ越しするクポ?」と。 細くてよく見えなかったが、この時、彼らの瞳がキラリと光ったような気がした。

そして、リルククが「そうだよ」と答えた途端、編集部はモーグリたちの独壇場と化した。 「手伝うクポ!」と言ったかと思うと、ものすごい勢いで荷造りをはじめたのだ。

役割分担も自然に行われており、個々の動作にも無駄がない。

すっかり見とれてしまい、はっと気がついた時には、すでに荷造りは終えられていた。しかも、床にはチリひとつ残さない見事な仕事ぶり。

彼らは、あっけに取られたままの私たちを尻目に、「じゃ、最新号はもらっていくクポ!」と言ったかと思うと、つむじ風のごとく去っていった。

こうして、私たちはもっとも労力を要する梱包作業を短時間で終えることができたため、編集部の引っ越しは、なんとその日のうちに完了した。

荷造り中にモーグリたちがやって来たのは、幸運としか言いようがない。ゼングやリルククは「日頃の行いのたまもの」と勝手に納得して喜んでいた。

もちろん、この幸運は偶然ではない。誰も意識こそしていなかったものの、モーグリの配達員が、今日あの時間に受け取りに来ることは決まっていたことなのだから。

しかし、こうも首尾よく事が運ぶと、やはり誰かに感謝したい。

というわけで、私は胸のうちでモーグリたち、そして女神に感謝した次第である。
Ainworth

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