特集 真龍ファヴニルに突撃せよ!
1.真龍ファヴニル

“龍のねぐら”と呼ばれる場所に冒険者が足を踏み入れて以来、その名の由来となっている龍を目撃した者は、ひとりとしていなかった。そして、誰もが「ここにいた龍は、すでに伝説の存在なのだ」という結論に納得していたのだが、今、ひとつの話題が巷を騒がせている。

「ついに、“龍のねぐら”の主が帰還した!」というのである。その名は“ファヴニル”。

このファヴニルは“龍(ドラゴン)”を凌駕する巨体を持ちながら、“飛竜(ワイバーン)”のように翼で大空を飛ぶこともできる、恐るべき種族“真龍(ウィルム)”に属している、と目されているという。

“龍のねぐら”とは、ボヤーダ樹の根の跡を奥へと進み、滝を下り、凶暴なモルボルの繁茂する危険な小径を進んだ先に開ける、広大な空間だ。

そこは、冒険者の中でも数多の経験を積んだ凄腕の強者たちが、自らの更なる鍛錬のためにモンスターを討伐しにやってくる場所となっていた。

しかし、そこに巣食うモンスターを易々と叩きのめせるような猛者たちの間ですら、いまや「奥には近づくな。近づくと真龍の不可思議な力で奥へと引きずり込まれ、生きては戻れないぞ」というのが、暗黙の了解となっている。

実際に私も、興味本位か、あるいは不注意なのか、うっかりねぐらに近づいてしまった冒険者が、奥に引きずり込まれて、命を落としていく場面に遭遇したことがある。

ひとたび、ねぐらの奥に引きずり込まれたら最後、たとえ仲間であっても手も足もだせず、ただなぶり殺しにされるのを見ていることしかできない。討伐はおろか捕らわれた者の救出さえ困難な恐るべき怪物、それがファヴニルなのだ。

今回私は、この真龍に対する調査の依頼を受けた。死と隣り合わせの危険な仕事だということは承知していた。しかし、この取材があれほど困難なものとなることを、その時はまだ知る由もなく、私は恐怖よりもむしろ武者震いにも似た高揚を感じていた。

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