特集 真龍ファヴニルに突撃せよ!
3.突撃〜死闘

いよいよその日がやってきた。集合場所にはリンクシェルのメンバーが何時間も前から集まりだし、当初指定していたジュノ港から、通行の妨げとならぬようソロムグ原野に変更しなければならなかった。

たまにしか顔を出さないメンバーもいて、よりいっそう今日の戦いが特別なものであることを感じさせた。

その総勢、約25名。めいめいが必要と思われる装備を整え、飲み物や食べ物も用意していた。

私も、数週間前から取りためていた蜂蜜を使った自家製アクアムスルムと、わずかばかりのジュースを、盾役になるナイトと精神力の消費が激しい後衛に差し入れた。

先日の戦いの経験から、それほど必要性は感じられなかったため、薬品は非常事態用に最低限の携行とした。

その後、時間をかけた戦術の打ち合わせがなされ、パーティの編成も決定した。

いよいよ、ボヤーダ樹の深奥、“龍のねぐら”へ突撃である。ファヴニル、覚悟しろ!

真龍ファヴニルの強さは計り知れなかった。その身を包むごつごつした鱗は、たとえ研ぎ澄まされた剣であろうとも、わずかな傷をつけることさえままならない。精霊魔法もことごとく跳ね返し、熟練の吟遊詩人の歌声でさえ真龍の耳には届かない。

しかし、それは作戦に織り込み済みだった。皆、長期戦になることを覚悟していた。

ファヴニルの吐く火炎で即死する恐れもあるため、「耐火措置を怠るな!」との声が定期的に飛ぶ。その声に促されて、魔道士はバファイラを、吟遊詩人は耐火カロルを絶やすことなく仲間にかけ続ける。

ナイトが真龍の攻撃を一手に引き受け、他の前衛は周辺のモンスターを駆除しながら、交代で必殺技を打ちこむ。
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黒魔道士が古代魔法を中心に唱えることで、前回より多くのダメージをファヴニルに与えているようだ。

呪文詠唱後、自分が標的となる前にパーティを離脱する点も抜かりない。

アライアンスとサブアライアンスを巧みに入れ替え、敵を翻弄する。その総指揮を取っているのはリーダーのPagou氏だ。

しかし、一瞬にして事態は悪変した。

前回と同じように、突如ファヴニルが猛りだしたのだ。大きな棘のついた尾が振り回され、多くの魔道士が重傷を負った。

盾役も数名倒れ蘇生措置を受けている最中。この急場をしのぎきるには明らかに戦力が足りなかった。入れ替えに遅滞が生じたこともあり、またも緊急脱出の指示が飛ぶ。一時撤退である。

不本意な展開だったが、この時、メンバーの士気は全く衰えていなかった。ねぐらに数名の犠牲者を残していたし、入れ替え時のいくつかの問題をクリアすれば、まだまだいけるだろうという感じがしていたからだ。

数名のメンバー変更と犠牲者の救出、作戦の再確認をすませた後、再度突入が決行された。

今度こそはファヴニルの息の根をとめ、今まで犠牲になってきた冒険者たちの仇を討ってやらんとばかりに、私たちは今まで以上に気合いを入れて挑みかかった。

「バファイ、カロル切らさないように!」「戦線離脱の際は注意して!」という指令の中、「しっぽ危ない」「立ち位置注意して」といった掛け声を交しながらの再挑戦。皆、必死だった。傷ついた仲間を介抱したり、身を挺してかばったり、各々が自分の役割をひたすら果たすことに専念した。

私たちは、少しずつではありながらも、確実に真龍を追いつめていった。

ふと、辺りを見回すと、いつも狩り場で競い合うライバル集団のひとりが、向こうで倒れているのに気がついた。ライバルとはいえ、日頃は一緒に狩りにいったり世間話をしたりする友人だ。今、蘇生措置を施せば息を吹き返すかもしれない。

しかし、仲間の回復に手一杯で、とてもその余裕がない。私は心の中で彼に詫びた。

その時だった。今までなんとか持ちこたえていた盾役のナイトが、一瞬で2名同時にファヴニルの火炎の餌食となり、その場にくずおれた。いそいで次の盾役が攻撃を引きつけたが防ぎきれない。

私たちは、またしても撤退を余儀なくされてしまった。そして、運悪く逃げ遅れ、真龍の攻撃で倒された私は、さらに恐ろしいものを目の当たりにすることとなった。

あらぶるファヴニルは、今度は見学にきていた冒険者たちを見つけだしては引き寄せ、次々とその鋭い爪で引き裂き始めたのだ。あたりには屍も散乱し、それはまさに地獄絵図さながらの光景だった。

すでに瀕死の重傷を負いながらも、新たな犠牲者を求めて徘徊するファヴニル。その隙をついて、なんとか脱出できたものの、2度にわたる撤退で、みんな心身ともに疲弊しきっていた。

ボヤーダ樹の入口に座り込んだ一同の口数は、少なくなっていた。最初にファヴニルに突撃してから、どれくらい経ったのだろう。やってやりたい気持ちは十分にあったが、体力と技術が追いつかないのだ。

結局、もう少し腕を磨いて、戦略も練ってから再度挑戦しようと誓い合い、その場で解散することになった。と、そこに懐かしい友人の姿をみつけた。

「見学させてもらったよ」と彼は私に声をかけてきた。「いい感じで体力も削れてたのに、惜しかったね……」その言葉に私は悔しさと安堵感で泣き出しそうになりながらも、わざと笑って見せた。

「でも、楽しかったよ」

こうして、私たちの挑戦は幕を閉じた。と、本来なら書くべきなのかもしれないが、まだ終わってはいない。

私たちの挑戦は始まったばかりなのだ。次に挑む冒険者諸君の健闘を心から祈る。

特派員:Palulu / Siren

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