第1回ゆるゆるフェイスグランプリの舞台裏 (2014/05/16)

ふう。
いつも天の塔で書類仕事に追われているクピピに、
これ以上、仕事をもりもり盛られても困っちゃうのなの……。
あ、あら、そろそろ始まる時間なのです。

冒険者のみなさん、こんにちは。
時間がもったいないので、
さっさとみなさんに催しものの始まりを宣言するのなの!
とっとと、そこに整列しやがれなの!

本日の催しものは、
ジュノ魔法学会主催による、「ゆるゆるフェイスグランプリ」〜!

名前はゆるいけれど、とってもまじめなイベントなのです!

フェイスという新しい魔法のことは、
まだまだ冒険者のみなさんにも
充分には知られていないようだ。

……とかなんとか、
ジュノ魔法学会の方々が思ったとか思わないとか。

クピピのフェイスを、まだ生み出してない冒険者は、
反省するのなの!

というわけで、ジュノ魔法学会が
天晶堂さんに、今回のイベントの企画と運営を丸投げ……、こほん。
一任して、とうとう本日!
すばらしいイベントが開催されることになりましたなの!

クピピも、みなさんのために
もうひと働きすることにしたのなの〜!

「それでは、『第1回ゆるゆるフェイスグランプリ』予備審査を始めるのなの〜!」

ウィンダス天の塔の書記官クピピが声を張り上げると、
会場となっているジュノ上層の、
限定酒場ことマーブルブリッジのなかにすし詰めとなっていた冒険者たちは、
会話を止め、いっせいに口を閉じて、前を見つめる。
いつもは背の高い小テーブルとストールの置いてある一角が、
イベントのための舞台となっていた。

「審査員は、天晶堂さんが独断と偏見で選んだこの方たち。
まずは、動物のお姉さんこと、アテルーネさん!」
クピピがエルヴァーンの女性の名を呼ぶ。
「よろしくお願いします」
舞台の端に設えられた審査員席からアテルーネが立ち上がり、
にっこりと笑顔を浮かべて軽く腰を折った。

「バストゥーク国の誇るファッションリーダーのブリジットさんと〜」
「やっほー、みんな元気ぃ!」
まだ子どもなヒュームの少女が元気に手を振る。

「冒険者のみなさんにはお馴染みの〜」
「いやならやめてもいいんじゃな?」
枯れ木のような手足をしているくせに眼光だけはやたらと鋭い老人が言った。
「やめちゃだめなの!
これは、ジュノのための重要なお仕事なのなの!」
「わしは修行で忙しいんじゃがのう……」
「あうう……もうさっさと始めちゃいますのなの!」
クピピはイベントの説明に取り掛かった。

ようするに、こういうことだ。
フェイスという魔法は、魔道士でなくとも、
「心と心の繋がり、信頼、親愛、友情で結ばれた絆」
があれば効果を発揮する。

まだまだ冒険者たちにも知られていないことだが、
親愛の情というものは、どれだけ愛すべき存在なのか──も重要なのである。
……と、考えた魔法学者がいるわけだった。

そして本日、その新魔法「フェイス」のアピールの一環として、
多くの人々に愛されるキャラクターを決めるコンペが行われる。

天晶堂の呼びかけのもと、
ある種族は「豪華グランプリ賞品」を求め、またある種族は一族の名声を上げるため、
とある種族はなんとなく佇んでいたところを連れてこられた……。

「審査員のみなさんには、
もっともゆるくて、もっとも愛されるキャラを選び出してほしいのなの!」

クピピが大会の意義を受け売りとは思えない堂々とした口調で語る。
もっともクピピが自信なさげに振る舞うほうが珍しいのだが……。

そして、東方製の紙に筆で書かれた対戦表が壁に貼りだされ、
出場選手たちが次々と登壇するのだった。

○第1試合 【モーグリ】vs【マンドラゴラ】
○第2試合 【サボテンダー】vs【リフキン】
○第3試合 【キキルン】vs【ゴブリン】
○第4試合 【ヒナチョコボ】vs【モグガーデンのカニ】

第1試合では、モーグリとマンドラゴラ族の2体が舞台にあがった。
マンドラゴラの2体は、年神が練り歩く時節、
どこからともなく現れ街に佇むAkeとOmeのコンビだ。
頭の上にオレンジを乗せた奇抜な格好に、観客たちから盛んに口笛が飛ぶ。
年が明けるたびに見ているお馴染みの姿で、
ただ植木のようにつっ立ているだけなのに、観客たちへの評判はいいようだ。
「おいしそうなの!
アケとオメの最強コンビ、大人気なのなの!」

クピピが審査員たちに評価を求めようとしたときだ。
「ちょっと待ってほしいクポ!」
対戦相手のモーグリが短い手をあげて発言の許可を求める。
「あら? どうしたのなの?」
「考えてみてほしいクポ! こんなフェイスがいたとして、熱砂のバルクルム砂丘や、
アルテパの砂漠を歩くつもりクポ? ぜったい似合わないクポ!」
「そうね。
あたしも、ファッションには季節感って大切だと思うわ」
ブリジットがきっぱりと言って頷いた。

審査員たちは結果的にブリジットの言うとおりだと認めて、
3票ともがモーグリが入って、マンドラゴラが落選した。

第2試合は、サボテンダーとリフキンの対決だった。
しゃべれないリフキンには、
南方特有のしゃべりかたをするミスラが付添人として付いてきた。
対戦相手のサボテンダ―が、黙って身体をゆらせて立ち続けるなか、
コルセアの早撃ちもかくやとばかりの滑舌でリフキンの可愛さをこれでもかと述べ立てる。

「話が長すぎるのなの……終わらないのなの……」
「せやからなぁ、このリフキンちゅー種族はやな……」
「あっ! 消えちゃったのなの!」
煙のように消えてしまったサボテンダーにクピピが焦る。
動物のお姉さんアテルーネが、しかたないわと慰めた。
「だって、アミーゴさんを呼び止められる時間には限りがあるのですもの」
舞台袖の奥で、サボテンダーをエントリーさせた獣使いの冒険者が悔しそうに唇を噛んだ。
不戦勝でリフキンの勝ち。
「ウチのアピール、意味なかったなぁ」

3回戦は獣人同士の対決だ。
キキルンもゴブリンも、火薬の詰まった玉──爆弾をふところから取り出した。
「ちょ、ちょっと待つのです! そんなの出しちゃいけないのなの〜!」
「どっかぁんイチバン、チャリチャリのおーと、いぱーい、ね。わかる?」
「爆弾、爆発するゾ、キラキラたくさん目の中に踊る。オレたち、にっこり」
「これぞ種族の特性ってやつね!
感性なんて種族ごとに異なるものだもの。
これで彼らがどうして爆弾を好むのかわかるかもしれないわ!」
ひとり喜んでいるのはアテルーネで、
「これじゃ、ちっとも、ゆるゆるグランプリじゃないのなの!」
クピピは頬を膨らませて嘆いた。

「ふぉほっほっ! こういう危ないおもちゃは……こうじゃ!」
枯れ木のように見えた老人マートが審査員席から立ち上がったと思うや、
一瞬で舞台上へと駆けあがると、
ただのひと蹴りで、爆弾を窓の外へと蹴りだした。
直後に爆発。爆風で酒場がかすかに揺れた。
おお、と観客席の冒険者たちからどよめきが漏れる。
衰えていない健脚に、
冒険者たちからは拍手が起こり、クピピは、はあと息を吐いた。
「そろそろ、おやつの時間なの。
もうロランベリーを食べに帰りたいのなの……」

得点はアテルーネがキキルンに、マートがゴブリンに入れ、
最後の1票をブリジットがゴブリンに入れて、ゴブリンが勝ち残った。
「だって、あのねずみさん何をしゃべってるのかわかんなかったんですもん」
クピピに理由を尋ねられてブリジットが答えた。

最後の4回戦は天才ヒナチョコボとして知られるサクラちゃんと、
モグガーデンに佇んでいるカニの対決だった。
「それでは、双方ともアピールをお願いしますなの!」
クピピが言った。
「……」
「……」
「アピールをお願いしますなの?」
「………………」
「………………」
「アピールなのなの!!」
「………………………………」
「………………………………」
「あうう……。
み、みなさん、投票をお願いしますなの……」

投票の結果、2票がサクラに入って、ヒナチョコボが残った。
「だって、かわいいから」
「ねー」
観客たちも拍手で賛意を現したのだった。

準決勝は、モーグリとリフキンが、ゴブリンとサクラが争うことになった。

「ほな、ウチがコイツのかわいさを引き続きぃ〜」
「ちょっと待ってほしいクポ!」
「なによ」
「残っている選手は、みんな自分たちの力で勝ち残ったクポ。
ここで、おねえさんがそいつを手伝うのは何か違うと思うクポ!」
「えっ!? だってコイツはしゃべれへんし……」
「ずるい……クポ」
「な、なによぉその目。
そ、そないな、つぶらな瞳で言われたって、
豪華賞品はウチのもんや。一歩も引かへんで!
だからその……」
「ずるい……」
「ううう」
「……(じぃー)」
「ああ、あかんて。そんな目で見つめられたら、ウチもう……」

リフキンを推薦した行商人のミスラ娘がしゃべれなくなると、
あっさりとモーグリの勝ちが決まったのだった。

準決勝の2試合めは、ゴブリンとサクラだ。
ゴブリンが登壇すると、観客たちはいっせいに身構えた。
また、爆弾を出してくるのでは、と思ったからだ。
「では、対戦相手のサクラさん!
サクラさん……、サクラさん?」
呼べど叫べど、ヒナチョコボが舞台にあがってこない。
「はい? なになに? えっ、さっさと逃げちゃったのなの!?」
観客たちがいっせいにどよめいた。
1回戦を見るかぎり、サクラちゃんが本命だと思われていたからだ。

「逃げるが勝ちって、言葉があるけど……。
仕方がないのなの。
勝者は、こちらのゴブリンさん! って、また爆弾!?」
「コレちがうヤツ。勝利の喜び用。赤い光がいっぱいキラキラ散るゾ」
「だから、だめぇぇぇぇぇ!」
「しょうがないやつじゃの」
窓の外に蹴飛ばされた爆弾がドカンと音を立てて爆発した。
「オヤ……オカシイゾ。アレ、赤い光だけだったハズ……」
ゴブリンが不思議そうに言った。
「もうだまれなの!」

「うーん。
じゃあ、決勝はモーグリとゴブリンに決まりなのなの?」
ようやっと決勝戦になった。
クピピはここまでの感想を審査員たちから引き出すべく振り返る。
「それでは、感想を……ブリジットさん?」
ブリジットはすっかり寝ていた。
無理もない。
彼女はまだ子どもなのだ。
クピピが肩を揺すっても目を覚まさなかった。
「困ったのなの」
どうしようかと顔を上げて、
隣の席にいたマートもいないことに気づいた。
「あ、あら? アテルーネさん、マートさんは?」
「修行の時間だからって帰ったわよ」
「ええっ!?」

ふと窓の外を見れば、すでに黄昏が迫りつつあって、
酒場のなかも薄暗くなっている。
日替わり酒場であるマーブルブリッジは、貸切できるのは1日だけだ。
「はぁ〜。……わかりましたなの。
それでは、決勝戦は後日、改めて行うということで……あらっ!?」
舞台袖から何か指示が出ていた。
クピピは集まっている冒険者たちに宣言する。

「ええと、決勝戦は、
『冒険者を交えた大規模なものになる』とのこと!

冒険者のみなさま、
気合いを入れていこうぜー!! ──なのなのです!」

言い終えると、クピピははあとため息をついた。
たった1日なのに、カウンターの仕事が懐かしくなった……。
冒険者さんたちがたまにお土産を差し入れたりしてくれるし。

それでも、クピピは使命に忠実な女だった。

「では、みなさま、冒険のお供にはぜひ新魔法フェイスをよろしくなのです!」

「決勝戦には、ぜひみなさんにも参加してほしいのなの。
ゴブリンが勝つか。
それともモーグリか。
みんなで一緒にゆるーくゆるーく対決するのなの!」

最後は晴れ晴れとした顔に戻って、集まった冒険者たちに言ったのだった。


Story : Miyabi Hasegawa
Illustration : Mitsuhiro Arita

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