銀河祭 (2007/06/29)

天空には無数の星々が形づくる河「銀河」がある、という伝説があるクポ。
悠久の時を越えて「銀河祭」がよみがえった今宵、この銀河にまつわる、ひとつの物語をお聞かせするクポ。

* * *

昔、昔、そのまた昔――。
南北に流れる大河を互いの国境とする、ふたつの国がありました。
西の国は美しい織物の産地として、たいそう栄えていました。中でも、皇帝自慢の娘アムディナ姫は、ひときわ美しいタピストリを織ることで知られていました。そのタピストリの繊細で精巧な意匠の魅力は、国内の貴族や富豪のみならず、国外の王族をも虜とし、先を争って皇帝の下に御機嫌うかがいに参上させるほどでした。

ある暑い昼下がりのこと。
連日のタピストリ制作に疲れたアムディナは、ふと気分転換に国境の大河に行ってみようと思い立ちました。
お忍びで訪れた大河は、宮廷育ちのアムディナにとってなにもかも新鮮でした。時が経つのも忘れ、水面で侍女と戯れていたアムディナは、ふと河原で羽根を休めている1羽の美しいカササギに目を奪われました。それは、彼女がよくタピストリの意匠にしている鳥でしたが、実際に目にしたことはなかったのです。しかし、もっとよく見ようとアムディナが近づくと、カササギは翼を広げ、飛び立ってしまいました。

アムディナはカササギを目で追います。すると、対岸で魚を獲っていたひとりの若者の側に、すっと舞い降りました。たくましく日に焼けたその若者に、カササギはたいそう懐いている様子。
それは、アムディナがはじめて目にする東の国の民でした。
若者は、アムディナに気づいたのでしょうか、白い歯を見せ、大きく手を振っています。しかし、すっかり動揺してしまったアムディナは、それに応えることなく、そそくさと河原を後にしたのでした。

その晩から、アムディナはタピストリ制作をぱたりと止めてしまいました。
ため息ばかりついて、自室にこもるようになった姫を心配した皇帝は、高名な医者に次々と診させましたが、誰ひとり病を治すことはできません。
でも、アムディナにはなんとなく分かっていました。
病を治すには、再び、あの河に行くしかないということを……。

そして、ある夕刻のこと、アムディナは気分が優れないと晩餐を断り、ついにひとりで城を抜け出しました。
それからアムディナは駆けに駆けました。しかし、河原にたどり着いた時には、すでに空には一番星が輝いていました。河は真っ黒。まるで横たわる大蛇のようです。

それでも、水面に足を踏み入れたアムディナは、自分が河に引き寄せられた理由を知ることになりました。対岸に、松明を掲げた人影が立っていたのです。そして、傍らには、あのカササギも……。そう、あの若者も来ていたのでした。

若者は、おもむろに松明を振りはじめます。アムディナが見えたのでしょうか? いいえ、こちらが見えるはずがありません。それでも、アムディナは手を振り返しました。あの日、あの時を取り戻すかのように、大きく、大きく……。
そして、想いを遂げることができたアムディナは、あの時の若者のように最後ににっこり笑いかけると、若者に背を向け、河原に向かって歩みはじめました。

その時です。姫の眼前に1羽の鳥が降り立ったではありませんか。
あのカササギでした。しかもよく見ると、傾げた首には、なにか白い布のようなものが巻きつけられています。おそるおそるアムディナが、それをほどくと、カササギは満足したようにひと声鳴き、再び空へと舞い上がりました。


布かと思ったものは、丁寧に折り畳まれた、見たこともない真っ白なパピルスでした。開くと、中には奇妙な紋様が縦に一列並んでいます。
アムディナは、それがなにか直感しました。

“対岸のあの方からの便りだわ!”

こっそり城に戻ったアムディナは、便りの内容を知ろうと書庫にこもり、夢中になって紋様のような文字をひとつひとつ解読していきました。
やがて、朝日が昇る頃、アムディナの頬にひと粒の涙が落ちました。
それは短いけれど、心に染みわたる愛の詩だったのです。

それからというもの、アムディナは毎夕城を抜け出しては、カササギに託して、若者と詩を交換し合うようになりました。はじめは自分の国の言葉で、そして、やがては互いの国の言葉で……。

しかし、そんなささやかな幸せにも、終わりの時がやってきました。再び、制作を始めたものの、急に躍動感あふれる作風のタペストリに一変させた姫をいぶかしんだ皇帝が、侍女に事の次第を吐かせたのです。
調べを進めた皇帝は、さらに驚くべき事実を突き止めました。
その若者は、あろうことか、戦場で皇帝が何度も煮え湯を飲まされてきた敵国の皇子ヤヒコだったのです。

皇帝はたいへん怒り、アムディナを塔へと幽閉してしまいました。王侯貴族に売れるタピストリ百枚を織り上げれば、もう一度だけ大河に行くことを許す、という条件をつけて……。

“あの方は、きっと今日もわたしを河原で待っている。”

アムディナは皇帝の言葉を信じ、一心不乱にタピストリを織りはじめました。


しかし、寝食をも忘れて制作に没頭した結果、無理がたたったのでしょう。アムディナは百枚目のタピストリを織り上げた朝、帰らぬ人となってしまいました。
最後のタピストリに織り込まれていたのは、星々の作る天空の大河で悠々と遊ぶ2羽のカササギの姿でした。

さらに、悲劇は続きました。
それから数ヵ月後、姫の死を逆恨みして東の国に攻め込んだ皇帝軍に対し、迎撃のため出陣した皇子ヤヒコもまた、流れ矢によって敢えなく落命したのです。
アムディナの死を知り、注意を欠いていたのかもしれません。

やがて、皇子の悲恋を知った東の河辺の民は、暑い日が続くと、河原に立てた笹に詩歌をしたためた五色の短冊を飾り、彼の供養を執り行うようになりました。対岸からその様子を見た西の河辺の民も、これに倣い、いつしか短冊を飾った無数の笹が両岸に立ち並ぶ、国境を越えた大きな祭典へと発展していきました。

河辺の祭典の噂が、西の国の宮廷に達するのに、それほど時間はかかりませんでした。
皇帝は、自国民までが敵国の祭典に加わっているという話に激怒し、国境までチョコボを飛ばしましたが、眼下に広がった光景に目を見張りました。
両岸から大河に向かって枝垂れる笹は、まるで両国に架けられた橋のように見えたのです。


やがて、皇帝は東の国へ和平の使者を遣わせました。
そして、東の国の皇帝と計らい、年に一度だけ両国民が自由に行き来できる日を定めたのでした。

* * *



後に、この大河にまつわる物語は、天空の河「銀河」に置き換えられることで、大河を見たこともない遠く離れた地方にも伝わっていったのクポ……。
今では、その大河がどこにあったのか、東の国と西の国がどこにあったのかも定かではないクポ。けれど、日頃会えない遠方の知人に、星々の河を渡して詩を届ける日「銀河祭」として、一部の地域では今でも定着しているクポ。

というわけで、この祭典に詳しいノマドモーグリの力を借りて、管理組合が「銀河祭」を再現してみたのクポ〜。
日々忙しい冒険者さんにとって、ふと足を止めて懐かしい仲間を思い出したり、大好きな人と再会したりできる機会になれば、とっても嬉しいクポ〜!
Illustration by Mitsuhiro Arita

銀河祭の遊び方は『こちら』。